心肺蘇生法はじめて物語 心肺蘇生法の歴史 紀元前9世紀から蘇生法ガイドライン2020

出典 左・中央心肺蘇生法の歴史 第3章-近代的蘇生法の開発 (umin.jp)、右日本小児循環器学会雑誌 第25巻 第 6 号

呼吸や心臓が止まってしまった人を助けるための心肺蘇生法は、救急車が到着するまでの間にできる最も重要なことです。

しかし、現在消防署や日本赤十字社などで学ぶことができる心肺蘇生法は、意外にも1950年代後半から1960年代にかけて開発された比較的歴史が浅いものです。

今回は心肺蘇生法の歴史を振り返って、現在の心肺蘇生法とどう違うのか見ていきたいと思います。


はじめての心肺蘇生法の記述は旧約聖書!?

「預言者エリシャは息をしていない子供の上に伏して,自分の口を子供の口に…重ねてかかがみこむと…子供は 7回くしゃみをして目を開いた」

旧約聖書 列王記下 4 章34–35節
CPRの歴史とILCOR CoSTR 2010 野々木先生講演スライド (umin.jp)


はじめての心肺蘇生の成功は、紀元前9世紀にイスラエルで活躍した預言者エリシアが行った人工呼吸であることが、旧約聖書に記載でわかります。

当時は奇跡であると考えられていたようですが、呼気吹込み法つまり人工呼吸であると考えられます。

試行錯誤を繰り返す古代の心肺蘇生法



紀元前9世紀に行われた現代にも通じる心肺蘇生法ですが、1800年代後半までは今では考えられないような蘇生法が行われていました。

ざっと挙げるだけでも

1530年ごろから役300年にわたりヨーロッパで使用された、人々の肺に空気を取り入れるために、「ふいご」を使用したふいご法

・1700年代、インディアンが実施していた、犠牲者の腸へと煙を吹き込み蘇生を試みた燻蒸法

・傷病者を大きいワイン樽に乗せて前後に転がすことによって、傷病者の胸腔を圧迫と解除させ、呼気と吸気を生み出す酒樽法

・1800年代、傷病者が水から救出されたときに、救助員は傷病者を馬に乗せて、馬を走らせ胸部を圧迫と解除をする乗馬法

とかなり衝撃的な心肺蘇生法が行われていました。

ふいご法 出典(レールダルメディカルジャパン)
酒樽法 出典(レールダルメディカルジャパン)


心臓マッサージの登場と心肺蘇生法の発展


17世紀前半には、心臓をポンプとする考えが提唱されてきましたが、心臓に直接圧力をかけるという考えはありませんでした。

18世紀になると広く全身麻酔が使われるようになりますが、後遺症として心停止が多くなったことから開胸をしての心臓マッサージが行われるようになってきました。

そして、1960年にカウウェンホーフェン(クーベンホーベン)・ジュード、ニッカボッカ―などによって閉胸式の心臓マッサージが発展し、

セイファー(サファー)などによって発展した人工呼吸の開発

ゾールなどにより確立された電気的除細動をあわせ、

現在の心肺蘇生法の原型が確立されました。


AEDの歴史


1850年に心室細動という心臓の異常が発見され、1885年には心室細動が心臓突然死の主な原因になっていることがわかり、1937年に開胸式の除細動器、1951年には閉胸式の除細動器が開発されます。


開発当初の除細動器は重量が70㎏ありましたが、1968年には3㎏まで軽量化に成功し、1978年に除細動器は市民が利用できる現在のAED(自動体外式除細動器)の形になり、国際蘇生ガイドライン2000で一般市民によるAEDの使用が推奨されます。

日本でも、2001年航空機内での客室乗務員のAED使用が認められ、2004年には一般市民のAED使用が認められるようになりました。

心肺蘇生法の流れの変遷史


1960年に人口呼吸法・胸骨圧迫心臓マッサージ法・電気的除細動器が統合され現在の心肺蘇生法が確立してから2020年で60年を迎えました。

1992年に世界各地の蘇生協議会が各自で活動していることを統合する目的でILCOR(International Liaison Committee On Resuscitation:国際蘇生連絡委員会)が設立され、その後 以下のようにガイドラインの更新が行われています。


ガイドライン       
流れ
ガイドライン1986

意識の確認→助けを呼ぶ→ 気道確保→2回人工呼吸→脈の確認→救急車要請→心臓マッサージ15回+人工呼吸2回

ガイドライン1992

意識の確認→助けを呼ぶ→気道を確保 ( 消防講習会では気道確保の前に“口腔内確認”を行う )→呼吸の確認→呼吸なし→人工呼吸:1.5~2秒かけて800~1200ml→ 脈の確認→脈なし→CPR:1分間に80~100回のリズムで15回+人工呼吸2回

ガイドライン2000

意識の確認→助けを呼ぶ気道を確保呼吸の確認→呼吸なし→人工呼吸:2秒かけて10ml/kg(500~800ml)→循環サインの確認→循環サインなし→CPR:1分間に100回のリズムで15回+人工呼吸2回

ガイドライン2005

意識の確認助けを呼ぶ気道を確保呼吸の確認(見て・聞いて・感じて)→呼吸なし→人工呼吸:1秒かけて胸が上がるのが見てわかる量→CPR:1分間に少なくても100回のリズムで少なくても5センチ沈む程度の強さで30回+人工呼吸2回 AED

ガイドライン2010

反応の確認→助けを呼ぶ→呼吸の確認(腹から胸にかけて見る)→呼吸なし→CPR:1分間100回以上のリズムで少なくても5センチ沈む力で30回+人工呼吸2回 ※人工呼吸ができないかためらわれる場合は心臓マッサージのみ AED

ガイドライン2015

反応の確認→助けを呼ぶ→呼吸の確認(腹から胸にかけて見る)→呼吸なし→CPR:1分間100回~120回のリズムで5センチ以上6センチ以下沈む力で30回+人工呼吸2回 ※人工呼吸ができないかためらわれる場合は心臓マッサージのみ AED

コロナ渦における心肺蘇生

自分の口鼻をマスクかガーゼで覆う反応の確認(顔を近づけず)→助けを呼ぶ→呼吸の確認(顔は近づけず)→呼吸なし→傷病者の口と鼻をマスクかガーゼで覆う→CPR:1分間100回~120回のリズムで5センチ以上6センチ以下沈む力で胸骨圧迫を行う ※人工呼吸は実施せずに胸骨圧迫だけを続ける AED



最新心肺蘇生法ガイドラインはどうなる?


2021年3月31日に、日本蘇生協議会からJRC蘇生ガイドラインが公表されました。

今までのガイドラインでは、いかにシンプルに目の前の人を助けることが出来るかというところに焦点が当てられていましたが、

今回のガイドライン2020では、判断に迷う場合どうしたら良いのか?心肺蘇生法時に衣服はどうするか?溺水者への心肺蘇生は?
など具体的に記載されるようになり、
目の前の大切な人を助けるということに焦点があてられるようになりました。

判断に迷う場合どうしたら良いか?


2015年のガイドラインと比べ、一次救命処置の流れや細かい項目について大きな変更はありませんが、より一般人に分かりやすい判断基準に変えています。

具体的には2015年のガイドラインには、死線期呼吸というしゃくりあげるような呼吸で正常な呼吸ではなく、心停止の際に見られる呼吸がある場合は胸骨圧迫を開始するという記載
であったのに対して
呼吸なし・判断に迷う場合は、ただちに胸骨圧迫を開始という記載に変更になりました。

また、反応なし・判断に迷う場合であれば大声で助けを呼び、119番とAEDの手配という判断に迷う場合に関して記載されるようになりました。

心肺蘇生法時の衣服はどうしたら良いか?


ガイドライン2015までは、心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行う前に衣服を脱がすように記載されていました。

今回のガイドライン2020では、衣服を脱がすのが困難な場合は衣服の上から心臓マッサージ(胸骨圧迫)を行ってもよいと記載されています。

ただし、AEDのパッドは素肌に直接貼る必要があるため、衣服の上からパッドは貼れません。


溺水者に対する心肺蘇生

コロナ渦における心肺蘇生から、バッグマスクがない、もしくはバッグマスク換気ができない場合は、成人傷病者には人工呼吸はしない、というのが基本方針ですが、呼吸が原因で心停止が起こる可能性が高い子どもや溺水者に対しての心肺蘇生は人工呼吸が欠かせません。

ガイドライン       流れ
ガイドライン2020

呼吸の確認(顔は近づけず)→呼吸なし→気道確保→吹込み(補助呼吸)2回脈拍の確認1分間100回~120回のリズムで5センチ以上6センチ以下沈む力で30回+人工呼吸2回 AED

 

最初の吹込み2回には、酸素供給と人工呼吸で状態を改善できる事を期待して行う補助呼吸の意味合いを持っています。

AEDパッドの名称変更


より一般人に分かりやすい判断基準というところでは、AEDパッドの名称も変更になります。

成人用電極パッド小児用電極パッドの名称でしたが、小学生以上が成人用とわかりづらいところが問題でした。

そこで、成人用電極パッド小学生~大人用電極パッド小児用電極パッド未就学児用電極パッドと名称が変更になります。


最後に


いかがでしたでしょうか?

紀元前9世紀に人工呼吸が行われてからかなりの変遷を経て、1960年に現在の心肺蘇生法の原型が開発されました。

以降、心肺蘇生ガイドラインは、時代にあわせ、最新の技術を取り入れ年々少しずつやり方が変わっていったり、より確実な方策が指摘されています。


今回新たに発表されたガイドライン2020も、今後、各地で講習会などが開かれていきます。


消防署の救命講習や日本赤十字社の救急法などが溺水者への心肺蘇生などをどのように取り扱うかは未定ですが、ぜひ講習会などに積極的に参加し、目の前の大切な人を助けるのに役立ててほしいと思います。

講習会に関してはこちらの記事をご覧ください。



参考文献・引用

心肺蘇生法の歴史 第3章-近代的蘇生法の開発 (umin.jp)
日本小児循環器学会雑誌 第25巻 第 6 号
【AEDの歴史】一般市民がAEDを使用できるようになるまでの経緯 – AED導入のヒント (aed-for-all.com)
JRC蘇生ガイドラインのこれまでとこれから | 2021年 | 記事一覧 | 医学界新聞 | 医学書院 (igaku-shoin.co.jp)
https://www.japanresuscitationcouncil.org/wp-content/uploads/2021/03/BLSonlinever1.4-2.pdf
JRC蘇生ガイドライン2020が全て公表されました | (japanresuscitationcouncil.org)

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